エジプト革命の原点「四月六日運動」と、ソーシャル・メディア、そしてアメリカ

昨夜は、リビアのたいへんな状況がアルジャジーラで流れていました。
病院から、取材記者が切羽詰まった声でawfulというのを聞くと、激震のはしって
いる21世紀初頭を感じます。


エジプト革命が、民衆の素朴な歓喜で終わるわけがありません。
CNNの女性記者が、あの日取り囲まれて暴力を受け、性的いやがらせ(レイプという
語をつかったニュースも)を受けたというニュースも流れました。
それを助け出したのも、女性20人くらいと軍の兵士たちだったそうですが。


そういうことの起きる雰囲気は、カイロに入って取材した田中龍作氏の記事を読むと
よくわかります。
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http://tanakaryusaku.seesaa.net/category/9647579-1.html

(略)

 「アラブ世界に行く時はイスラエルのスタンプを押したパスポートを持って行ってはならない」。これは中東在住経験のある商社マン、外交官、ジャーナリストたちの鉄則である。

 
 ヨルダンとエジプトはイスラエルとの間で和平協定を結んでいるため、パスポートにイスラエルのスタンプを押していても入国はできる。ただし安全なのは空港までだ。街に出れば民間人にパスポートを見せなければならない場合がある。イスラエルのスタンプがあったりしたらもう大変だ。


 市民革命で一時騒乱状態となったカイロでは辻(交差点)という辻で自警団が検問した。自警団は拳銃や山刀で武装していた。タハリール広場に入るには5〜6回も「反ムバラク派」の市民によるチェックを受けた。


 騒乱を機に1300〜1500人もの受刑者が脱獄したからだ。まっとうなエジプト国民はIDカードを、外国人はパスポートを所持している。どちらも提示できなければ脱獄者ということになる。


 「親ムバラク派」は財産を守るため、「反ムバラク派」はタハリール広場での妨害工作を防ぐために、通行者の身分を厳重にチェックした。


 タハリール広場周辺では多くの外国人ジャーナリストがボコボコにされたり、軍に突き出されるなどした。最も多かったのは米国人記者だ。「嫌米・嫌イスラエル」はアラブ人の共通感覚である。


 米国人記者もそんなことは十分承知している。「俺はオーストラリアンだ」などと嘘をつきたい処だろうが、パスポートでモロバレだ。ユダヤ系特有のDavidなどという名前だったりしたら「殺して下さい」と宣言しているようなものである。

(略)
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殺気だった広場に、米国人記者である女性が入ると、戦場と同じで性的暴走が爆発するのでしょう。ほんとに嫌なことです。


さて、エジプト革命は、米国の息のかかった軍部のクーデターであり、のっとられたと、副島隆彦氏がいちはやく13日の時点で書いていました。
そんな徴候も聞こえて来るようですが、ほんとうのところはわかりません。


このたびの革命のyou tubeなどのアクセス数を見ると、フェイスブックtwitterの十倍くらいはあります。圧倒的。
フェイスブックは、実名登録主義です。好奇心の強いわたしは、登録してみようか
とも思うが、
どうしてもその「実名」というところにひっかかる。
実名・誕生日・家族・交友関係・趣味・嗜好・・・などなどを書いたリストを集積して
いる米国のフェイスブックの会社。
世界中のものすごい数のプライバシーを一手につかんでいる会社・・・・気持悪く
ないですか?


以下は、「四月六日運動」とフェイスブックについての関係、それから背後
アメリカの影があること、などを解説した、田中宇さんのメルマガ記事。
(挿入の元記事アドレスは省略しています。英語元記事を読みたければ、田中さんの記事へアクセスしてください。)

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田中宇の国際ニュース解説 無料版 2011年2月18日 http://tanakanews.com/


ソーシャルメディア革命の裏側
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 エジプト革命を主導した若者主導の市民組織の一つに「4月6日運動」があ
る。08年4月6日、エジプトの地方都市エルマハラエルクブラ(El-Mahalla
El-Kubra)の工場で労働者が賃上げ要求のストライキを起こしたが、それを支
援する市民運動として4月6日運動が作られた。
この運動体は、フェイスブックツイッターフリッカー
http://www.flickr.com/ )、ウェブログなど、
ソーシャルメディアと総称されるインターネットの交流ツールを活用して運動
を拡大したのが特徴だ。



 エジプト初のソーシャルメディア市民運動と呼ばれたこの運動体は、言論
の自由の要求(当局に拘束された記者の釈放運動)や、当局の選挙妨害活動へ
の反対、イスラエルのガザ空爆に対する非難など、幅広い運動を展開してきた。
同運動は、今回の革命の指導役の一人となったエルバラダイIAEA前事務局長
が昨年、母国の政治運動に参加すると表明した当初からエルバラダイと連携し
て動き、タハリル広場の反政府運動を組織した。
ムバラクから政権を奪ったエジプト軍が反政府運動の側と話し合いを持ったとき、イスラム同胞団と並んで、同運動の代表者が呼ばれた(エルバラダイは呼ばれなかった)。同運動と、運動の中心的創設者であるアハマド・マヘルは世界的に有名になった。



 4月6日運動のもう一つの特徴は、早い段階から米当局筋に支援されてきたことだ。
08年12月、米政府の国務省や、ホワイトハウスで世界戦略を練る安全保障関係者、米国の世界戦略を立案する外交問題評議会(CFR)、グーグル、フェイスブック、米3大テレビ局、AT&Tなどの米国のメディア関係大企業などが後援・関与し、ソーシャルメディアを活用する若者らの市民運動体を世界各国から招待して「国際青年運動連盟」(AYM http://www.movements.org/ )の初めてのサミットがニューヨークで開かれた。結成から間もない4月6日運動は、このサミットに呼ばれている。



 米国の国益に沿う形で世界各国の「民主化」を支援するカーネギー財団も4月6日運動に注目し、その指導者であるアハマド・マヘルのインタビューを載せている。



 カーネギー財団や米国務省などの米当局筋は10年以上前から、米国の言う
ことを聞かない指導者が率いている外国の政権を、その国の市民運動を支援す
ることによって転覆させる「カラー革命」の戦略を採ってきた。その皮切りは
00年にセルビア市民運動「オトポール」(Otpor!)がミロシェビッチ政権
を倒した時で、その後、04−05年にグルジアウクライナベラルーシ
どで、米当局に支援された地元の市民運動がオートポールのやり方を真似て政
権転覆を画策する動きが起きた。



http://tanakanews.com/e1130ukraine.htm
ウクライナ民主主義の戦いのウソ


 セルビアのオトポールは、米当局に支援されて政権転覆を画策する市民運動
のはしりである。エジプトの4月6日運動は、このオトポールと同じ、拳骨を
振り上げたデザインをシンボルマークとして使っている。




▼カラー革命のブローバック?


 4月6日運動は、早い段階から米当局筋に支援されてきたが、だからといってこの運動体が米当局の傀儡やスパイであると「悪い」方向に考える必要はない。この運動体は、自分たちのまわりの社会を良くしようと純粋かつ真摯に考えるエジプトの若者らが参加・推進していると考えた方が自然だ。
私にとって分析が必要だと思うのは、4月6日運動そのものに関するものでなく、4月6日運動を支援し、ムバラク政権を転覆するところまで容認してしまった米当局筋の意図に関するものである。



 腐敗した独裁体制を30年間も続けてきたムバラク政権は転覆されて当然で
あり、米当局筋が4月6日運動を支援してエジプト革命を扇動ないし誘発した
ことは「良いこと」であり、そのことを不思議に思う必要などない、と思う人
もいるかもしれない。だが、ムバラク政権が30年も続いたのは、米国が同政権を支持していたからだ。


 エジプトが真に民主化されてしまうと、イスラム主義や汎アラブ民族主義
標榜する政権ができかねず、エジプトは、中東から米国の影響力を排除し、イ
スラエルを敵視する動きを始めかねない。だから米国は、イスラエルとの和平
を維持してくれて、腐敗した独裁だが米国の言うことを良く聞くムバラクを支
援してきた。米当局は、最近副大統領になったスレイマンが率いる諜報機関
治安維持のやり方を伝授し、スレイマンがエジプトのイスラム主義者やリベラ
ル派を弾圧するのを支持してきた。米国は1960年代からエジプトの内政に
関与している。米政府は、この関与をやめるだけで、40年前にエジプトを民
主化できたはずだ。



 米当局筋がこの10年、世界的に扇動してきた「カラー革命」は、反米諸国
の政権を転覆するのが目的だったと考えられるが、それを表に出してしまうと、
米政府は内外から非難される。だから米当局は、反米政権の国々だけでなく、
エジプトのような親米政権の国々の市民運動も形だけ支援し、格好をつけて
きた。だが、それが誤算を生み、エジプトの4月6日運動などが率いる反政府
運動が意外にもエジプト国民の圧倒的な支持を受けてしまった。米国が望まな
ムバラク追放が現実のものとなり、仕方なく米政府はそれを支持せざるを得
なかった、という「ブローバック」(戦略の予期せぬ反動による逆流的な悪影
響)の仮説も成り立ちうる。



 しかし、私はこの仮説にも懐疑的だ。エジプト革命が成就した直後の2月
15日、米国務省は、ネットのソーシャルメディアを活用した各国の市民運動
による民主化運動を全面的に支援し続けると宣言した。これは、中国やイラン、
ロシア、キューバなど反米諸国の政権を転覆することが主眼であると説明され、
国務省アラビア語ペルシャ語、中国語、ロシア語などを使ってツイッター
で直接に各国の市民に民主化運動をした方がよいと呼びかける活動を開始した。



 しかし同時に国務省は、親米政権の国であるインドのヒンドゥ語でもツイッ
ターでの語りかけを開始したほか、同じく親米政権のベトナムについても、市
民の反政府運動を支援すると表明している。米当局がエジプト革命を、反米政
権だけを転覆するつもりが親米政権まで転覆してしまったブローバックと考え
るのなら、このような無差別な政権転覆扇動の乱発をするはずがない。同じ過
ちを繰り返すのは、プロフェッショナルとしてあってはならない「未必の故意
とみなされる。



 昨年まで、米政府は「エジプトは民主主義の国だ。ムバラクは良い指導者だ」
と言っていた。しかし1月末にエジプト国民の反政府運動が激化すると、米政
府や、米国の著名な言論人の多くが「ムバラクは腐敗した独裁者だから追放さ
れて当然だ」という言い方に転じ、米国がムバラク追放を扇動してしまうこと
になった。イスラエルサウジアラビアの要人たちは、米国に警告したが容れ
られなかったので怒り、驚愕している。この展開を見ると、エジプト革命
ブローバックとして起きたとは考えにくい。米政府は、意図を持ってムバラクの失脚を容認したと考えられる



http://tanakanews.com/110212egypt.htm
やがてイスラム主義の国になるエジプト




▼反米政権でなく親米政権が転覆される


 米政府は、中国やイランの反米政権を転覆する目的でエジプト型のソーシャルメディア革命を世界的に扇動しているが、その結果はおそらく、親米政権の転覆による悪影響の方が大きくなるだろう。



 エジプト革命は、中国の民主化運動にほとんど影響を与えていない。中国の
人々は、物価高騰や、地方の役人が都市計画などで私腹を肥やすことに腹を立
て、デモや暴動もよく起きるが、それらは経済的な利害に基づく不満であり、
共産党独裁をやめて民主選挙をやらないと解決できない問題だと考える人は少
ない。エジプト型の革命は中国に伝播しそうもない。




 ロシアでは、エジプト革命の余波で政府に向かうかもしれない市民の怒りの
鉾先を、日本に向けるように仕向ける努力が、露当局によって行われている。
中露との対立を激化することで日本の対米従属姿勢を強化したい前原外相が訪
露したが、ロシア政府は前原の戦略を逆手にとり、北方領土問題で反日デモ
青年組織にやらせたりして、ロシア国民の反日感情を煽っている。日本の外務
省傀儡系の論者たちは、前原の訪露を「意外にうまくいった」と書いているが、
実際には、前原はロシアにやられっぱなしだ。日本の後ろ盾である米国の覇権
が衰退する中で、北方領土が一島も返ってこないで終わる可能性が増している。




 イランでは反政府運動が起きており、政権転覆まで至る可能性がないわけで
はない。しかしイランの反政府運動は05年ごろから断続的に続いており、イ
ラン政府は運動が激化しても何とか抑圧してきた。イラン政府は、反政府運動
への対策についてかなり経験がある。反政府運動が従来をはるかに超える大規
模にならない限り、イランの政権転覆は起きないだろう。




 イランからペルシャ湾をはさんだ対岸にあるバーレーンでも反政府運動が激
化している。バーレーンでは内閣が総辞職するなど、イランより先に政権転覆
が起きそうだ。バーレーンで政権転覆が起き、スンニ派の国王が、国民の多数
を占めるシーア派によって追放されると、大変なことになる。バーレーン同様
シーア派が多数派であるサウジアラビア東部に反政府運動が伝播し、サウジ
の油田の大半が存在する東部地域がサウジから分離独立を目指しかねない。そ
れについて説明していくと長くなるので改めて書く。ソーシャルメディア革命
の本質についても、書き残していることがある。

【続く】



この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/110218net.htm

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たいへん興味深い記事です。


グーグル幹部ワエル・ゴニム氏の号泣のyou tubeを紹介したとき、わたしは語学が
できず、英語のテロップを読むのが遅いので、どういうわけか、


It's my fault


と言ったように読みとったのです。
もちろん、誤読ですから、あとで訂正しておきましたが、
あの号泣嗚咽する全身からしみ出ているのは、It's my fault. そんなつもりじゃ
なかった、こんな大事になると思ってやったのではなかった、という悔いとおびえ
のように感じとれました。


これほどの懊悩を見せるのは、自分の父が片目を失い、妻からは離婚を言われ、そんなめちゃめちゃになった家族を思って、なのかとも、考えましたが。


もちろん、思いすごしかもしれません。


世界はあまりにも入り組んでいる。
しかし、エジプト革命の過程で見たような、ここでyou tubeで紹介したような
人々のぎりぎりの叫び、懊悩、静かな抗いは、人間の真実の姿として確実に伝わってきたことを思い、信ずるに足ると感じます。