2008-01-01から1年間の記事一覧

「文学魂」と、いまの世の中。

「文学魂」という文章については、いろいろ反響をいただいています。 古い友人からは、そのとおりだけれど「しかし、現在の日本社会は過去から全く変貌し、社会自体にも人間自体にも価値観に狂いが生じてしまっており、自分自身の有する価値観を活かしつつ生…

文学魂

世間というものを知り始める、十代から二十代にかけての若者のありようはいつの時代にも同じである。 すじみちの通った理や、人間としてあるべき義、そういったものが額面どおりに通じず、むしろ姑息に、抜け目なく、うまく立ち回ったほうが得になるという裏…

知るということ

以下に紹介する記事は、五月の新聞切り抜きからです。心に留まった記事は捨てるに捨てられず、結局五ヶ月間も机の周辺に置いてあった。部屋が片付かないわけです。 例によってうちは東京新聞ですから、その五月二十二日付け、世界の街海外リポートという在外…

若桑みどり著『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国』上・下 集英社文庫 2008.3

この書は、厖大な史料を駆使した学問の書である。 イタリア・ルネサンス時代を中心とする西洋美術史を専門とし、ヴァチカンの図書館で古文書を渉猟することのできる語学力をもつ著者が、そこに豊富に残された天正少年使節の史料を読み込んだものというだけで…

NHK困るセンター

友人である内野光子さんのプログを、ときどき覗きます。内野さんは知る人ぞ知る硬派の歌人・短歌評論家で、『天皇制と短歌』など、切りこみにくいテーマを丹念に資料で追求する仕事をなさっています。プログは、そんな短歌評論や関わっている地域の問題が中…

国に棄てられた兵士たち・・・奥村和一・酒井誠著『わたしは『蟻の兵隊』だった』岩波ジュニア文庫

この夏(注・2006年)、東京では、七月末に封切られたドキュメンタリー映画『蟻の兵隊』がしずかなロングランを続けている。中国山西省残留問題に関わる裁判で、最高裁に上告した最後の控訴人五人のうちの一人、今年八十二歳になる元残留兵奥村和一さんを追…

戦争の愉楽・・・井上俊夫著『初めて人を殺す 老日本兵の戦争論』(岩波文庫)

戦争の悲惨さについては、しばしば聞かされてきた。わたしたちは映像や活字やさまざまなかたちで見、聞き、このような戦争を再び繰り返してはならないと知っている。だが、これらはすべて、被害者の視点からする反戦平和の弁ではなかったか。 戦争には、じつ…

八月の靖国とモノ作りの手・・・映画『靖国』

この春問題になった、くだんの映画『靖国』を見た。優れた、ふところの深い映画である。 冒頭、袴をはいた老人が刀の鞘を払い、真上から刀剣を振りおろす。空を切る風の音――ひやりとする。そのとき、中国人にとって「あの戦争」の記憶は、真上から振りおろさ…

「涙目」という言葉

ほかの新聞ではどうか知りませんが、東京新聞では、何年か前から、一般ニュース記事の中に「涙目」という言葉がつかわれています。せんだっては、ヒラリー・クイントンの選挙戦を報じた記事のなかに「クイントンは涙目だった」とありました。 子どもの頃、薬…

坂口弘歌集『常しへの道』角川書店、2007.11

朝日歌壇に、かの連合赤軍あさま山荘事件の坂口弘が投稿していると聞いたことがあった。歌稿集が出たという話も聞いたが、読みたいとは思わなかった。○○の、と銘打った歌集は、ほぼ例外なく冠の部分がものを言うのであって、歌を読ませるものではないからで…

西行一首

昔かないり粉(こ)かけとかせしことよあこめの袖に玉襷(たまだすき)して 西行 あるとき、西行でも読んでみるかと、NHK市民大学講座のテキスト「西行の世界」(久保田淳)を買ってきた。数頁ひらいて、まず、頭注に並ぶ「題知らず」十数首ばかりの冒頭〈あかつ…

あれやこれや

ブログ更新はたいへんだ、とは聞いていましたが、やっぱりそうなんですね〜。 七月に入って、ブログ画面にゆっくり向きあうゆとりがありませんでした。気になりながら。 とりあえず、備忘録のようなメモを残します。 いつものように、新聞"引裂き"記事の整理…

「女の空間」で。

六月二十日、金曜日の夜、以前から依頼されていた「女の空間」という小さな集まりにうかがいました。わたしの住むところから歩いても行ける距離に、このようなスペースがあって、活動されていたのです。いわば、会員資格は女性のメンバーズグラブ、あるいは…

班忠義著『ガイサンシーとその姉妹たち』梨の木舎、2006.9

この二月半ば、「ガイサンシーとその姉妹たち」という映画の上映会があった。班忠義監督に元日本兵と熊谷博子監督をまじえたシンポジウムもあるというので、雨の中を出かけた。本書は、その会場の前に積み上げて販売されていた。 映画を見たのでもうじゅうぶ…

文字を目で聴く

短歌を少しやると、文語脈での新仮名遣いはどうも具合が悪いということにすぐ気づく。 「出(い)づ」は新仮名遣いだと「出ず」となるが、「出(で)ず」と紛らわしいのでこれのみは「出づ」とする――なんていう新仮名短歌のルールを教えられるが、そんないい加減…

鈴木邦男著『愛国者の座標軸』作品社2007.12

「一水会」という右翼団体があって、鈴木邦男という人がいることはおぼろげながら知っていた。教育基本法改正案をめぐって「愛国心」論議かまびすしい一昨年のある日、そのインタビュー記事を見た。「宝にも凶器にも愛国心は化ける」「自民党が卑劣だと思う…

片目

三歳を過ぎて 片目の野良猫の 世の苦浸(し)みたる風情(ふぜい)に歩く 三歳を過ぎて片目の野良猫の世の苦浸みたる風情に歩く 歌集『巌のちから』 この子に会いに行かなくなってから、もう二年か三年経ちます。植木にじゃれついたり、くるくる走りまわった…

経験の検証

どういうわけか、私たちは<経験の検証>ということが下手だ。<経験>の意味を知の光のもとに考え通す、ということをする人はまれである。そのぶんあたりの情勢には敏感であり、目先にちらちらするものに賛否両論となえつつ一斉になだれ込んでゆきがちでも…

鈴木邦男の本

いま、午前七時五十分。熊日新聞書評欄に「阿木津英が読む」というコラムを、三ヶ月に一回くらい書いているのですが、今回は鈴木邦男著『愛国者の座標軸』作品社をとりあげて、たったいま、なんとか終わったところです。 鈴木邦男と言えば、右翼団体「一水会…

知っておきたい

2006年4月に、東京都教育委員会が、「職員会議において『挙手』『採決』等の方法を用いて職員の意向を確認するような運営は不適切であり、行なわないこと」という通達を、各都立高校の校長に出したそうです。 今年は2008年、すでに2年間にわたって、都立高校…

痴愚神

わが脛(はぎ)に つむりを載せて 鼾(いびき)する 痴愚神(ちぐしん)ひとり テーブルの下 わが脛につむりを載せて鼾する痴愚神ひとりテーブルの下 歌集『巌のちから』より

ワンダーなんかいらない・・・・・穂村弘と佐藤嘉洋

日曜日、パソコンの前につみあげた紙きれ類を整理していましたら、古い新聞切り抜き(破り抜き?)が出てきました。一枚が、東京新聞(うちはずっとこれなので)二月二日付け「土曜訪問」欄の穂村弘さんのインタビュー。 穂村さんの『短歌の友人』について、…

近藤芳美のこと

あれは、おそらく、昭和五十一年一月の新年歌会だったのではないか。会議室に、コの字形に机が並べられていた。 歌評は、『未来』掲載歌のなかから選んで行なわれたが、せっかく九州から来たのだからと、誰かの懇切なすすめで、わたしは休憩時間に黒板に一首…

発砲スチロール

秋津川の写真は、削除しました。 手前に、発泡スチロールの白が目立って、気になってたまらないから。 あの川岸は、昔、犬といつも散歩した道です。 ひろがった田圃には、雲雀がそれはもううるさいくらいに鳴きます。 あの秋津川の向こうに木山川というのが…

鱏はエイ

鱏の文字が、つぶれてよく見えませんが、魚へんのエイです。 日記というものが続いたためしがない。まれに書くと、つまらぬことを書いて後悔する。だから、このブログをつくるにあたって、日記だけは書くまいと決心しています。 にも関わらず、何かもぞもぞ…

歌の出会い

出会うということは、難しい。それは、神さまの玉突き遊びのようなものである。さまざまな偶然が一致して、同じ時間と空間を共有しなければこの世の人との出会いはないが、しかし鼻面つき合わせて十年つき合ったって、出会わないままであることもしばしばな…

Aのつぶやき−−穂村弘著『短歌の友人』

穂村弘さんの新しい評論集『短歌の友人』を、恵投たまわってすぐに開いた。で、びっくりしたんです。そのまま閉じたのは、なぜだったか。今朝、どういうわけか珍しいことに暗いうちから目が覚めて、本を漁っているうちに、「友人」にふたたび出会い、またま…

Aのつぶやき・補

ある作家がどういう作家であったか、二、三行で言い取ることは、とてもむずかしいことです。しかし、だからこそ、作家の核心をつくことばを探すたのしみもあるし、また読むたのしみもあります。 「斎藤茂吉の歌を支えているものを、私は生のかけがえのなさの…

柔らかなこころのために

歌を作りはじめてから、三十年を過ぎました。一九七四年、児童相談所の心理判定員として勤務していた二四歳のとき歌に出会い、ついにここまで来てしまいました。歌を生活の中心に据えるという生き方は、否応なく「清貧」たらざるを得ないのですが、そういう…