政治エリートにひきずられる鳩山総理・・・佐藤優の眼光紙背

鳩山首相「野党の時代には、まるで見えないものが、総理大臣官邸にいると見えてくるものもある。そういう
なかで認識を新たにしていく部分もあり、沖縄における海兵隊の存在の重要性を認識している」「移設先とし
て四十数か所を検討したが、最終的に沖縄にもご負担をいただかなければならない」http://www3.nhk.or.jp/news/html/20100511/t10014370291000.html


こういう言い方は、歴代の首相にはない正直さではありますが、当事者のこころを汲み取らないものだと思
いませんか。
真喜志氏のいう「タフな外交」が、沖縄当事者にむかってなされている感あり。


佐藤優氏は、わたしは本も読んだことがありますし、映像でも発言を聞いたことがあります。どうもわたしは
好きにはなれない。でも、この記事には感心しました。さすがに対ロシアと「タフな外交」をしてきた経歴を
もつ方だと思いました。




抄出要約
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http://news.livedoor.com/article/detail/4759954/?p=3
佐藤優の眼光紙背】鳩山内閣の崩壊は誰の利益に適うか?



○いま普天間問題を理由に鳩山内閣を崩壊すると、その結果、官僚の力が極端に強まり、日本の民主主義が機能
不全に陥ると考えるからだ。感情を排して、現状をできるだけ客観的に分析しないとこの危機が見えない。


鳩山由紀夫日本国内閣総理大臣という1人の人間に2つの機能がある。

 第1は、日本国民の選挙によって、多数派を形成した民主党の代表としての機能だ。国民によって形成される
社会を代表する機能と言い換えてもよい。

 第2は、官僚の最高責任者としての機能だ。

 この2つの機能が「区別されつつも分離されずに」、鳩山総理に体現されている。



○今回の総選挙で当選した与党の下地氏が沖縄県内への移設を公言したことにより、「ゲームのルール」が変化
した。これまで民主党は「沖縄県の民意は少なくとも県外」という前提で解決策を見いだそうとしていた。
下地氏の発言によって、東京の政治エリートは、沖縄県内への移設を強行しても地元を説き伏せることはできる
という認識をもった。この機会を逃さずに、外務官僚、防衛官僚が、沖縄県内への移設に向けて総攻勢をかけた。
鳩山総理に「官僚の最高責任者としての機能」だけを果たさせようとしているのだ。特に外務官僚は、「アメリ
カから外圧がかけられている」という雰囲気を醸し出す対政界、対メディア工作を行い、それが効果をあげた。
鳩山総理は、このまま官僚に引き寄せられると、政権が崩壊するか、あるいは官僚の操り人形になるという危機
意識を抱いている。しかし、孤立無援に近い状況に追い込まれ、所与の条件下で、社会の代表と官僚の最高責任
者の両機能を果たすことができる均衡点を探している。それが外部からは迷走のように見える。



○沖縄は抑止力を理解していないのだろうか? そうではない。太平洋戦争中に沖縄戦を体験し、米軍と自衛隊
の基地を抱えている沖縄は、抑止力のもつ意味をよくわかっている。沖縄が抑止力論による議論に忌避反応を示
すのは、安全保障の問題に関する議論をする前提となる信頼関係が東京の政治エリート(閣僚・国会議員・官僚)
と構築できていないからである。抑止力論をわかりやすく言い換えると、「日米同盟を維持するために沖縄が
必要なのだ。それだから、沖縄県民には運が悪かったと思ってあきらめ、日本国全体のために然るべき負担をし
ろ」ということだ。これは、太平洋戦争末期に「本土防衛のため」という国策で沖縄を「捨て石」にした大本営
のエリート参謀たちの論理の反復にすぎない。沖縄は「捨て石」の役割を十二分に果たした。文字通り玉砕した。
しかし、日本本土は玉砕せずに、大本営のエリート参謀の大多数は生き残った。大本営のエリート参謀は、所与
の条件下、日本本土が生き残るためにもっとも合理的な選択をしたのである。「捨て石」にされた沖縄が、「俺
たちのために、あんたたちは犠牲になれ。そいう運命なのだ」という理屈を絶対に受け入れることはない。抑止
力という切り口から、沖縄と議論を始めた瞬間に、その交渉が決裂するということを東京の政治エリートは理解
できていないのである。残念ながら、この政治エリートの「常識」に鳩山総理も引きずられている。



○沖縄が展開しているのは、反軍・反米闘争ではない。沖縄は、「左翼の島」ではない。
他の日本のどことも同じで、沖縄には左翼もいれば右翼もいる。そしてノンポリもいる。伝統、習慣を尊重し、
年配者を大切にすることは保守的価値観だ。その観点からするならば沖縄の土地柄は日本でもっとも保守的だ。
沖縄が怒っているのは、日本の陸地面積のわずか0.6%の沖縄に在日米軍基地の74%が存在するという不平
等な状態を東京の政治エリートが是正しようとしない現状に対してだ。沖縄はそこに政治エリートの沖縄に対す
る意図的もしくは無意識の差別感情があると考えている。




○不信感を払拭する努力を、政治エリートが目に見える形で行わない限り、普天間問題で政府が沖縄と「共通の
言葉」を見いだすことはできない。



○沖縄と東京の政治エリートの間に、不信のヒビが入っている。ここで信頼関係を構築する努力をしないとなら
ない。そのためには時間をかけた誠実な対話が必要になる。いまここで普天間問題を政局にすると、沖縄は「結
局、東京(の政治エリート)は、沖縄を政争の具としてしか考えていない」という根源的な苛立ちと悲しみをも
つ。その結果、「結局、自分の身は自分で守るしかない」と沖縄は静かに本土から距離を置く。静かに距離を置
くので、鈍感な東京の政治エリートには、それが日本の国家統合に与える悪影響が見えない。しかし、不信、苛
立ち、あきらめの蓄積は、そう遠くない将来に、形になってあらわれる。そして、抑止力として、日本もアメリ
カも沖縄に頼ることができないような状況になることを筆者は恐れる。



○メディアは沖縄カードを政局に使うのはやめるべきだ。そして、与野党の政治家と官僚が一丸となって、沖縄
との信頼を回復するために努力することだ。さもないと日本の国家体制の基盤が、内側から腐食する。