フランスのデモの現状・・・by 在住「特派員」より

われらが「特派員」I氏より、以下のようなお便り。


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おひさしぶりです。シチリア山中のギリシア・ローマ神殿群を廻っていたのでしばら
くネットとはご無沙汰していました。


パレルモに出てきたのでようやくネットをすることができました。


先生のブログの中にフランスのストの話がありましたが僕がフランスのニースからイ
タリアに電車で入ったのが10月12日のスト当日であり、この日は早朝から、SNCF
(フランス国鉄)が大ストライキを打ち電車の稼働率は20〜50%でした。


特に僕が乗ろうとしたニースとベンチミグリ(イタリア)間は稼働率は10%もなく大変で
した。仏伊間はSNCFが運行しているので、影響は大きいと思いますが、仏伊の国民は
労働組合を支援しており、受容しております。


日本の連合のようなダラ幹ではなくどちらも対独レジスタンス以来の闘争に国民が敬意
を表しているからでしょう。ようやく乗り込めた電車の中で隣席の人に日本では鉄道が
ストをしたら庶民が困るなどと報道されると話したら奇異に受け取られました。


僕がパリにいた時も9月20日過ぎからはCGT(フランス総同盟)が小集会・大集会を
重ねてバスチーユ広場に集結していました。それが10月12日のSNCFゼネスト
繋がっていったと思われます。


思えば僕がパリによく行った30年前には同じバスチーユ広場で「年金を50歳から支給
しろ」と叫んでいたCGTが今度は年金の支給年齢繰り延べに反対しなければならなく
なったので組織の全存在を賭けて闘うことにならざるを得ないのでしょう。


それから、ブログの中で円が海外で安いということを円のローカルカレンシー説で説
明しておられる方がいらっしゃいましたがそれは違うと思います。


僕は10月22日にボローニャ空港で少しユーロを買いましたが1ユーロ=129円でした。
同日付で落ちたJCBは1ユーロ=113円。この差は仏伊の観光客政策にあると思います。
仏伊も基礎経済においては円高を容認しながら、日本の観光客に対してはローマ帝国
ナポレオンの威容をいまだに振りかざして後進国扱いをしたいのです。


いまイタリアで一番人気があるのがスズキやダイハツですよ。プライドの高いラテンの人がせめて
通貨のことだけでも日本を下にみたいのだと思います。


イタリアに来てからは毎朝、プロセコ(スパークリングワインの1種)が安いのでがぶ飲みして
まして、ボローニャのホテルでは朝食を取りにホテルのレストランに入る時、ガラス戸に激突し、
失神してしまいました。

そのあとは痛み止めにワインを飲み続けています。

それでは拝眉の折りを楽しみにしております。

パレルモのホテルにて   I 拝


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(笑・・・ワインがよく効くといいですね)


同じく、保坂展人さんのブログでも、フランス在住の方からの報告が掲載されていました。
彼我の若者の政治意識の違いがひしひしと感じられます。

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年金改革に揺れるフランス(飛幡祐規・パリの窓から)
http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/c5c4f74e6f52af3bf60e2ee5a6dd231c
ニュース / 2010年10月29日


今日は久しぶりに一時帰国している飛幡祐規さんと、食事をしながらフランスの現在を伺った。
スキャンダル続きのサルコジ政権を揺るがしているのが、「年金改革反対デモ」で彼女の高校生
の息子もさっそうとデモに出かけたそうだ。日本で「後期高齢者医療制度」反対デモに大挙して
高校生が参加しているようなもの。グローバリズムが押し寄せ、サルコジ政権まで誕生してしま
ったフランスだが、「社会的連帯」「世代間連帯」は健全に残り、若者の不安定雇用に高齢者が
怒り、高齢者の直面する年金改革に高校生が連帯するという構図は残っているようだ。
レイバーネットから、飛幡さんのレポートを転載する。

〔引用開始〕

飛幡祐規・パリの窓から

「年金改革に揺れるフランス」


フランスでは今、年金改革法案に反対する運動が大きく広がっている。夏休み前にも大き
なデモがあったが、国民議会と元老院(日本の衆議院参議院にあたる)に法案がかかった
9月の初めから現在(10月23日)までに、6度にわたる大きな全労働組合共闘の全国デモ
(100万人〜300万人)が行われ、スト運動がつづいている。とりわけ、製油所12か所がすで
に1週間もストで停止、石油の倉庫もつぎつぎと封鎖されたために、多数のガソリンスタンド
(一時は全体の3分の1)が供給切れとなり、欠乏状態をうみだしている。また、ここ2週間ほ
どでまず高校生、つづいて大学生の中にも反対運動が広がってきて、デモが繰り返され、封鎖
された高校もある。



 10月25日からの3週間弱の日本滞在(飛行機が予定どおり飛べば)をひかえ、この大規模な
社会運動について詳しく書く余裕がないのだが、1995年の大規模な長期スト(このときも年金
改革反対運動)、2006年のCPE反対運動(若者の初採用契約法への反対)に匹敵するような、
大規模でめざましい運動であり、正直言ってこの先何が起きるか誰にも予想がつかない状況に
なってきたので、出発前に大ざっぱな状況の説明をしておくことにする。



 フランスの年金改革はこれまで何度か行われた。複雑な内容を乱暴に要約すると、合法的
な定年の年齢を65歳から60歳に引き下げた画期的なミッテラン政権の改革(1981年)の後、
失業率と年金生活者が増加したために、年金保険金庫が赤字になった。そこで、1993年以降、
分担金を支払う就業年月をそれまでの37,5年から40年以上に徐々に増やす改革が何度か行われ
た。サルコジ政権は、近年の世界的財政危機の影響でますます増えた赤字を減らすために、
「平均寿命が延びたのだから、もっと働かなければ年金は払えない」と、今年新たな「改悪」
法案を提出した。合法的定年退職の年齢を60歳から62歳にひきあげ、就業年月が足りなくても
規定の年金額100%がもらえる年齢を65歳から67歳にひきあげるものだ。



 問題のひとつは、この政権ではいつものことだが、政府は法案を国会にかける前に労働組合
とろくに交渉せず(ただ会見するだけで議論の余地なし)、国民もまた、この議論に参加する
機会をまったく与えられなかったことだ(「国民のアイデンティティについて」という、誰も
望んでいなかった討議を政府主導でやろうとしたが)。はじめ、政府と交渉して自分たちの主
張が(多少は)聞き入れられると思っていた主要労働組合は、政府の態度に怒って、法案の討
議の始まった9月以降、統一デモとストを繰り返すことになった。


 この年金改革を担当する労働大臣は、夏のあいだにベタンクール事件をはじめ、数々のスキャ
ンダラスな疑惑に名前を連ねたヴルト大臣である(7月のコラム参照)。司法が真に独立した民主
主義国家なら、大資産家との癒着や公私混同の疑惑を受けた大臣は国政をつかさどる役職にとど
まれないはずなのだが、サルコジ王国ではそうはならない。こうして法案は、与党UMPの議員が
過半数を占める国民議会で可決された。元老院でも野党は多数の修正案を提出して抵抗したが、
政府は今週末から始まる学校の秋休みまでになんとでも可決させようと、項目をまとめて採決で
きる特別条項を使って強行採決にふみきった。



 世論はというと、デモが繰り返され、年金改革の内容がより広く知られるにつれて、反対運動
への支持が高まった(いちばん最近の世論調査によると、69%が反対運動を支持している)。
平均寿命が延びたといっても、フランスではホワイトカラーとブルーカラーでは8年も寿命の差
があるのだ。辛い職場で働いてきた人々にとってはとりわけ、必要な就業年数の延長につづく今
回の定年年齢ひきあげは、不当に感じられる。失業やパート労働などによって就業年数の足りな
い人々(とりわけ女性に多い)にとっても、定年退職年齢の2年延長は不公平に感じられる。


 国民にこの「不公平」の感覚が高まったのも無理はない。政府は国庫が赤字、健康保険も失業
保険も年金保険も赤字と言うが、そのつけを払わせられるのはいつでも中・低所得者だ。
一方、銀行のためには直ちに多額の援助金を用意し、ごく一部の高所得者に有利な税制改革をした。
おまけに、この夏、ベタンクール事件などをとおしてつぎつぎと暴かれたカネと権力の癒着を見
て、多くの市民の政府に対する不信感は深まったのだろう。


 ちなみに、政府の言説に反して、フランスの労働生産性は欧米諸国の中でも高いほうなのだ。
そして、サルコジの税制改革のせいなのか、フランスはヨーロッパでいちばん百万長者が多い(
しかし、国民の過半数の所得は低い)。日本と同じく、ネオリベラルの政策はここ十数年のうち
に、貧富の差をますます広げた。また、フランスの労働状況の特徴は、とりわけ若者とシニアの
就業率が低いことだ。定年退職年齢が引き上げられ、本人が働きたいと願っても、50代で解雇さ
れたら職はなく、失業保険や社会補助金で生きていくしかない。


 年金とは遠い世界にいるはずの高校生たちがこの運動に参加したのも、10代からこの雇用不安
が深刻に感じられている状況をあらわしているのだろう。シニアの定年年齢が上がれば、若者の
雇用はますます減るーー年金よりまず、若者の雇用政策を考えるのが優先事項だという意見もある。


 16〜17歳の高校生(フランスでは18歳が成年)たちが社会運動にのりだした裏にはまた、サル
コジ政権に対する大きな反発があるだろう。この夏のロマ民族に対する差別的な発言と措置(EU
国連から批判された)、9月に可決された外国人規制強化の法律など、人権を危うくする政策も、
多くの市民にショックを与えた。なにより、権力を大統領ひとりに集中させて、異なる意見や批判
に場を与えず、すべてを自分のペースで進めようとするサルコジの強権的・独裁的なやりかたに対
して、国民の不満と批判が高まっている。わたしは三十年以上住むフランスで数多くのデモを見て
きたが、プラカードや垂れ幕に掲げられたスローガンやイラストに、大統領に対する憎悪がこれほ
ど強烈に表現されたことはかつてなかった(ふつうは担当大臣や首相が槍玉にあげられる。むろん
ヴルト大臣もからかわれているが、いちばんのターゲットはサルコジだ)。


 サルコジ大統領は「絶対に譲らない」と反対運動に向かって宣戦布告をした。交渉や調停の余地
はないから、運動は過激化する。石油倉庫の封鎖を解除するために機動隊や警官が送られ、ある地
方では県知事が労働者の「徴用」を命じた。一方、ストをつづける精油所の人々あてに、他の市民
から支援の小切手が送られているという。


 法案は可決され、高校生は秋休みに入ったが、労働組合は10月28日と11月6日の全国統一デモを
決定した。政府はそれまでに反対運動が下火になり、国民の不満(ガソリンの欠乏で営業停止をよ
ぎなくされた中小企業、秋休みに遠出をあきらめた人など)がストに向けられるのを期待しているが、
さあ、いったいどうなるのだろうか?


  飛幡祐規(たかはたゆうき) 2010.10.23 →レイバーネット

(引用終了〕


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