ロンドンで聴くエジプトの声・・・・・by TUP速報

ロンドン在住者が、視聴したエジプト民衆蜂起の声です。TUPメンバーの一人だと
いうことです。↓この方のブログが、TUP速報で流れてきました。


「ロンドン在住のTUPメンバー藤澤みどりは家事の傍らBBCや、デイリーテレグ
ラフ紙、アルジャジーラなどのもたらすニュースなどから豊富な情報を得て、
世界の大変動の始まりに立ち会う実感をブログ
http://newsfromsw19.seesaa.net/に綴っています。」


藤澤さんは、仕事をしながらテレビをつけっぱなしにするそうですが、「無料で
視聴できるBBCニュース24を中心にしてたまにSKYニュース、重要案件が議題に上
がったときは議会チャンネルを、ロシアで事件があったときはロシア・トゥデイ
にチャンネルを合わせる。CNNとイングリッシュ・アルジャジーラは無料視聴
可能時間(1日数時間ずつ)にアメリカと中東のニュースが知りたいときにつけ
る」という、誰でもが視聴可能なニュースから、以下の記事を書いています。


フェイスブックとかtwitterのようなものはやってないそうで、「イギリスのテレ
ビ視聴者なら誰でも可能な手段しか使っていない」のだそうですが、それでこれだ
けの情報が入るなんて。


日本のマスメディアは、言葉の壁をいいことにしてなのか、どうなのか、なかば
情報鎖国をしているとしか思えません。



ここでは、要約しながら御紹介します。
詳しくは、TUP速報あるいは藤澤みどりさんのブログでご確認ください。
TUP速報 http://www.tup-bulletin.org/


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<第1信>
1月29日土曜日14時50分GMT (日本標準時23時50分)
革命なう@エジプト第5日


(略、ムバラクのスピーチののち)
そこにテレグラフのリーク[註1]。う〜ん、どういうことだ。つまり、この民衆蜂起は
アメリカが3年前に仕込んだってこと?
あまり面白いストーリーじゃないが、これを
いま出したってことはウィキリークスに何か意図があるのでしょう。
考えられること
は、蜂起している側に「よし、そのまま行け。ムバラクの手は縛る」とお墨付きを与
えたったことかな。

[註1]米国が2008年からエジプトの議会制への体制変革を目指す反体制運動のリーダー
を支援していたという、ウィキリークスのリークと、
http://wikileaks.ch/cable/2008/12/08CAIRO2572.html
その内容を伝えた記事
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/africaandindianocean/egypt/8289686/Egypt-protests-Americas-secret-backing-for-rebel-leaders-behind-uprising.html

(>後述 そうじゃないな、なにしろいまエジプトはインターネット・ブラックアウ
トだ。つまり、これはムバラクへの最後通牒だ。15.00BMT)

で、その次に出てきたのがオバマのスピーチ。大きい話をさせるとこの男はうまい。
直接ムバラクに退陣を迫ったわけではないが、はるかなる昔に世界のだれにも先駆け
て高度な市民社会を築いた者たちの末裔に、それにふさわしい文明(デモクラシー)
を与えよとぶち上げた。遠回しに、もう辞めなって言ってないか?

(孫崎さんが、背後にCIAが絡んでないかなどと疑っていたことを思い出す。米国といっても一枚岩ではないが・・・)


(略)


BBCニュースキャスターのギャビンが提出した質問がわたしも気になるところ。つまり
、もし、無血(正確にはそうじゃないけど、ほとんど)革命が成功してムバラクが退
陣したとすれば、すぐにも選挙が行われる。で、その選挙でアメリカが望まない政党
が勝利したらどうなるのか。つまり、パレスチナにおけるハマスのように。 で、この
場合はムスリム同胞団のことだろう。

カイロは拡大された外出禁止令により、すでに午後4時から外出禁止に入っている(GMT
より2時間先)。が、橋の上に配置された数台の戦車と、そのまわりを行き交う大勢の
人々が映っている。一説によれば、まだ数千人が路上に出ているらしい。

そしてこれだけのことが、フェイスブックもツイッターもインターネットそのものも
携帯電話もテキストメッセージも電話そのもの何もないところで起きている。



(略)



<第2信>
1月29日土曜日23時50分GMT (日本時間30日8時50分)


(略)


戦車の上から軍人(たぶん、小隊長クラス)が周囲をぎっしり埋め尽くす群衆に叫ん
でいる。どうか若い人たち、自分の家の近くをみんなで守ってくれ、わたしも軍服を
脱いでギャングから街を守ることにする。どうか、自分の家と家族と国を守ってくれ。

それに答えて若者たち、男たち、少年たちが、自警団を作り、あちこちに検問所を作
り、自分たちの手で自分たちの街の安全を守っている。夜間外出禁止なんてもうだれ
も気にかけていない。

それにしても英語がうまいんでたまげるなあ。だれもかれもが流暢というわけではな
いけれど、マイクを向けられれば、いま何が起きていて、自分たちが欲しいものは何
で、そのためには何が起きればいいとかいったことについてたいへん雄弁だ。



<第3信>
2011年01月30日日曜日22時00分GMT(日本時間31日7時00分)
革命なう@エジプト第6日


夜間外出禁止令が解けるとすぐに第6日のプロテストが始まった。いい天気だ。女性の
姿もけっこう見られる。

カイロの上空をジェット戦闘機が2機低空飛行し、他に軍用ヘリコプターも飛んでいる
。カイロからの特派員の報告が、ジェット戦闘機の爆音で聞こえなくなることがある
。ちょっと前にムバラクが軍司令部を訪問したというし、何か関係があるのか。徴兵制
なので兵士と民衆のあいだの垣根が低く、友好的で、実際にそのような場面がいくつ
も報道されているが、ムバラクが軍隊出身だけにやはりトップやエリートなど司令官
クラスは一般兵卒とは違うだろう。心配だ。天安門は見たくない。

(後述> 人々が集まる広場の上空の非常に低い位置を戦闘機が通過するとき、人々は
空を見上げて不安そうにしている、と報告するレポーターがいる一方で、自らその群
衆の一員となっているエジプト系イギリス人の作家(女性)は、確かに不安そうには
しているけれど怖がってはいないとBBC24のインタビューに答える。エジプトの人々の
このような怖がらない姿はかつて見たことがないと。集会そのものが禁じられていた
エジプトでは、野外の目立つ場所に大人数で集まることだけでもものすごい勇気がい
る行為だから)


(略)


カイロでは携帯電話の回線の一部とインターネットの一部が回復したとのこと。ウィ
キリークスは、今現在のインターネット不通状況を受けて、例のテレグラフ特報を含
む流出公電をファックスでエジプトに送っているとか。どこに送っているのかは知ら
ない。

アルジャジーラは当局によって活動を止められているらしい。夕べ、アルジャジーラ
・イングリッシュはモルグを取材していた。血に染まったシーツをかぶせられた死体
が何体も運び込まれていて、モルグの外では家族が泣き叫んでいた。そのモルグに運
び込まれていた死体は警官に殺された人がほとんどのようだった。

(日本のメディアでは、ウィキリークスについての話題がほとんど出ないようです
が・・・・)

(略)



<第4信>
2011年02月01日火曜日9:00GMT (日本時間18:00)
革命なう@エジプト第8日


市民革命が起きることがようやく信じられるようになってきた。どうかこれ以上、誰
の血も流れることのないように。

タフリール広場で夜を明かした人々が今日の巨大デモの準備を始めている。若い父親
と母親が脇に立つ小さいテントの中から起き出してくる小さい男の子と女の子のきょ
うだい。大勢の興奮した大人たちに囲まれて街中の広場で過ごしたこの夜は、この子
たちにとってどんな思い出になるんだろう。


カイロばかりじゃなく、アレクサンドリアでもスエズでも、他の都市でも同様にデモ
の準備が始まっているという。カイロでは夕べの時点ではまだインターネットも電話
い。回線もあまり回復しておらず、人海戦術でデモを告知して回っていたらしい


チャンネル4ニュースはメインキャスターのジョン・スノウが現地入りしていて(この
人は根っからの現場記者らしく、いつも事件の震源地に行きたがる)デモの組織者の
一人に街頭でインタビューしていたが、それによるとフライヤーを3万枚印刷していま
それを撒いているところだと言い、もし何かあって自分が殺されるようなことがあっ
たとしてももう人々の流れは止まらないと、悲壮感ではなく、むしろさっぱりとした
様子で話していた。


動員の方法については、別のチャンネル(あっちこっちサーフィンしていたのでどこ
か忘れた)で電話インタビューに答えていた大学生(女性)も、人々が自主的に通り
から通り、家から家を回ってデモ告知していると言い、聞いた人が自分も告知する側
になり、どんどん広がっていると言っていた。

このコミュニティの濃さ。

昨日はアカウンタントに会いにセントラルに行き、行きがけに買ったガーディアンで
、ガーディアンのウィキリークス本『ウィキリークスーージュリアン・アサンジの機
密戦争内幕 Wikileaks Inside Julian Assange's War on Secrecy』が31日発売と知っ
たので、用件をすませてからあっちこっち回ったんだけどまだどこにも売ってない。
結局、地元まで戻ってきて駅前のウォーターストーン(書店チェーン)のカウンター
で聞いたら、公式の発売日は2月1日になっていて、店頭に並ぶのはその2、3日あとと
のこと。ガーディアンに直接注文したほうが早いかしら。割引だし。



■<第5信>
2011年02月01日12:09GMT (日本時間01日21:09)
革命なう@エジプト第8日(続き)


エジプト人俳優のオマー・シャリフ(『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』)
が滞在中のカイロのホテルからインタビューに答えていた。かれの宿泊している高層
階の部屋は、二面の壁がすべてガラス張りになったすばらしく見晴らしのいい部屋で、
窓辺に立つと人々でぎっしり埋まったタフリール広場が見渡せる。


「ほんとうに美しい眺めだ」「エジプトの人たちが、こんなに口々にデモクラシーと
いう言葉を使うのを初めて聞いた。いままで一度も聞いたことがない。この状況が人
々を勇気づけ、この言葉、デモクラシーを使わせているのだろう」


かれはこのデモを見届けて、今日、住まいのあるマドリッドに帰るそうだ。「若い人
たちがほんとうに礼儀正しく、抗議行動もとてもよく組織化されていて、こんな若者
たちがたくさんいてくれて心から誇らしい」

今日のプロテストに対しては軍事力を用いないと軍から宣言があり(国営テレビで放
送され)、それを聞いてまだ半信半疑だった人々や、すでに家族を失って引きこもっ
ていた人々なども街頭に出てくる決心をしたようだ。


さっき、電話インタビューを受けていた女生徒は、これが自分にとって生まれて初め
て抗議行動だと言い、家族のだれもいままでプロテストにでたことはないが、今日は
みんなでいくと言っていた。


(略)


11.40GMT (現地時間:13.40)

タフリール広場で祈りが始まった。

国営テレビで(アルジャジーラがシャットダウンされているのでいまはこれしか放送
していない)、ムバラク支持者のデモが放送されているそうだ。スタジオのアナウン
サーは、クラッシュがないといいですね、とコメント。


これは夕べもあったお手盛りのものだろう。夕べはタフリール広場のすぐ近くの川岸
ムバラク支持者が集まり(集められ)、ムバラク支持と、エルバラダイへの不支持
(電話インタビューされた若者は、あまりにも汚い言葉なので言いたくないと答えて
いた)を繰り返し訴えていたようだ。国営放送はこの様子を放送し、数千人規模と言
っていたが、その電話インタビューに答えた若者が実際に見に行ってきての報告によ
れば、マキシマムで200人とのことだった。

広場を見渡す場所からジョン・シンプソンが報告する。過去30年、そこらじゅうに密
告者がいる状態で、人々は思うことを口にすることもできなかった。いま、それが一
斉に解き放たれて、みな思いの丈を口にしている。

カイロ市内に数カ所(7〜8箇所ぐらいか)デモの起点が設けられている。だから、タ
フリール広場に集まっている人がすべてではない。

アレクサンドリアで取材中のBBCの記者は、群衆に近過ぎて全体の人数等の把握はでき
ないが、非常にたくさんの人々が市内の何箇所の決められた場所に集まってきている
と報告していた。

国連の人権高等弁務官事務所の報告があった。このプロテストが始まってからのエジプ
ト全土での死者は300名。

そろそろ祈りが終わるころか。もう誰も死なないように。




<第6信>
2011年02月01日
革命なう@エジプト第8日-2


現地時間夕方5時過ぎごろからデモ隊が広場を出て行進を開始した。カイロの街はもう
夕闇に包まれている。広場に集まっていたのは20万人ほど(それ以上は入れなかった)。
入りきれなかった人が道路に、橋の上に、町中にあふれているとレポーターが伝えた。

軍は武力を用いないと約束しているが、大統領の宮殿などでデモ隊が暴力的な行為に
出る可能性もないとは言えず、不測の事態も心配されている。暴力行為が発生した場
合、軍はそれを止めるために場合によっては武力を使用せざるを得ないと目されてい
るからだ。

人々は口々に「世界が見ている」と言い交わし、暴力的な衝突が起きないよう呼びか
けあっているという。

もうかれこれ2時間ぐらい前か、ヨルダンのキング・アブダラーが自国の国民の街頭プ
ロテストの要求を入れて、政治体制の変革を約束した。(後述:プロテスターは首相
の退陣と貧困の解決等を要求しており、王の退位を求めるものではなかった>王の命
で内閣が総辞職し、新首相が任命されたが、この首相人事には市民は納得していない
もよう)

アメリカのシニア政治家としては初めて、ジョン・ケリー上院議員が「ムバラクは政
権を去るべきだ」と公に意見した。ジョン・ケリーはブッシュの二期目大統領選を争
った(そして、おそらくは投票マシンの不正で負けた)民主党の大統領候補。


(略)


要件をすませてから駅前のウォーターストーンに寄る。ウィキリークス本はまだ平台
に載っていない。「何かお探しですか?」と店員が声をかけてくれたので、しばらく
ためらってあとで「ウィキリークスについての本が今日出てるはずなんですが。ガー
ディアンから」というと調べてくれた。

「ああ、今月ウィキリークスに関する本が2冊出ますね。1冊は今日でもう1冊は半ば。
今日の分はもう届いているはずなんですが、まだ箱の中かなあ」などと言っていたら
、若い店員が「これ」と言って持ってきた。振り返ると、これから平台に載せようと
している『ウィキリークス ジュリアン・アサンジの機密戦争内幕』が20冊以上、床
に積まれていた。



(略)


現時時間はそろそろ夜9時。タフリール広場を埋め尽くす人、人、人。

アルジャジーラではレポーターもスタジオのキャスターもみな興奮を隠せない様子。
「すごい、光景です。すごい音です。これは間違いなくアラブ世界の現代史に残る光
景でしょう」


アルジャジーラはエジプト政府によって取材を禁じられているので、広場に集まる人
々のあいだに入って声を集めることができない。そのため、イングリッシュ・アルジ
ジーラでは広場を見下ろす高みのような場所にカメラを据え付け、その映像を流し
っぱなしにしている。


群衆は次々にチャントを繰り返し、その割れるような声が広場の上空に響き渡る。「
これはデモンストレーションというより、ずっと友好的で、お祭りのようで、まるで
ロックコンサートみたいです」

19.00 GMT

スタジオのキャスターが、今日、カイロで路上に出た人は百万人を越え、その他エジ
プト各地でさらに百万に及ぶ人がデモンストレーションに参加したと言っている。

まもなくムバラクが「一つの解決策」をテレビで発表するとのこと。(続く)

9.00 GMTからムバラクのテレビスピーチがあった。

まったく子どもだましにもほどがある。今日の今日、百万のオーダーの人々が平和的
に行進したのに、いったいだれに向かって話しているのか。

わたしは見たし、あなたも見たでしょ。世界中が見たでしょ?


それなのに、この男は、デモは暴力に変わり、政府ビルに火がつけられたって、いつ
の話を持ちだしてるんだよーーー。この混沌が平穏と安定に変わるまでわたしは現職
に留まって尽力するんだってさ〜。


警官を引っ込めて解き放ったお手盛りの泥棒や放火犯も、市民の自警団と軍によって
抑え込まれている。条件だけ並べればもっとアナーキーになっていてもおかしくない
のに、カイロの街は驚くほど平常だとレポーターは言う。どこに混沌があるんだ。

約束したのは次の大統領選に出ないということだけで、権力の移行が平和的に終了す
るまでわたしが力になるんだってさ〜。(大統領戦に立候補しない件については4日前
のスピーチで約束していたような気がしてたんだけど勘違いだったみたいだ)

そんでもって、歴史が審判するだろうだってさ。イラク戦争について非難されたブレ
アが同じことを言っていた。そして、おまけに、わたしはエジプトに骨を埋めるだと
さ〜。


スピーチが終わったとたん、タフリール広場の全体像を映すアルジャジーラの映像が
大きくうねり、大群衆が吠えた。


広場の人たちを地上から映したBBCのレポートでは、広場の壁に白いシーツが広げられ
、それをスクリーンにしてテレビスピーチを見ていた人たちが、スピーチが終わった
とたんに靴を脱いで振り回していた。


反対勢力(opposition、「野党」ではない)はムバラクが大統領の座を降りるまで交
渉には応じないとしている。プロテストはまだ続くが、次の一手がむずかしいだろう
なあ。

テレビを見ていただけなのにひどく疲れた、

朝日新聞衛星版。昨日(1月31日)のカイロ発の記事はとてもよかったのに、今日(2
月1日)になったら記事の出所がカイロとワシントンの二方向になり、全体がワシント
ンの見解にひっぱられちゃって、なんだかなあの展開になっている。「ワシントン」
も、「ワシントン」が世界で最高の場所だと信じる人たちも、「百万人」と一言で表
される人ひとりひとりに名前と顔があることを忘れているようだ。


「ワシントン」の思惑がどうであろうと、そんなもので動くのはごく少数の人間だけ
だ。そのごく少数の人間が拷問や収監で人々を縛り、意見を奪ってきた。その人たち
が声を取り返したいま、ワシントンの思惑を聞く耳は、ワシントンの前にまずその人
たちの声を聞かなければならないのではないか。


カイロの記者は自分が目の前で取材している人の存在そのものを信じられないわけで
もあるまいに、opposition(反対勢力、反政府勢力)を「野党(Opposition)」と訳
したとたんに、もう頭の中には「野党=ムスリム同胞団」という「ワシントンの定義
」に染められちゃうみたいだ。ワシントンの思惑がなんであれ、目の前にいる人を色
眼鏡を外して取材するべきではないか。




<第7信>
2011年02月02日13.53GMT(日本時間02月02日22:53)
革命なう@エジプト第9日


9.00 GMT (現地時間:11.00)


解放広場(タフリール広場)で夜を明かした人々が今日のデモンストレーションの準
備を始めている。かなり冷え込んだようだ。街のあちこちから広場を目指す多数の人
々の流れを、数カ所からBBC24ニュースが伝える。

軍からはもう抵抗運動はやめて帰宅するようにとのウォーニングが出ている。国営テ
レビで発表があり、また、今朝から回復したテキストメッセージ(携帯電話のメール)
を使って同じメッセージがまかれているようだ。インターネットも今朝から回復した
ようだ。

様子が違うのはムバラク支持者が街頭行動を始めたことだ。ムバラクが大統領職に留
まると知って、ムバラクが国を出て行かないと知って、士気の上がった支持者が外に
出てきた。昨日までのお手盛りのものとは様子が違う。とても危険な感じがする。

解放広場に入ろうとするムバラク支持者と、反政府勢力のあいだで小競り合いがあり、
いまのところ、軍隊がムバラク支持者が広場に入るのを止めているようだ。

ムバラク同様に30年以上にわたって大統領職にあったイエメンのサレハが、街頭プロ
テストが拡大することをおそれ、ムバラクと同様のオファーを発表した。2013年に予
定されている次の大統領選には出馬せず、また、息子も出馬しない。ここのところが
ムバラクとは違う。ムバラクは息子の件については昨日のスピーチではふれなかった。

ヨルダンでは国王が指名した新しい首相にプロテスターは満足せず、さらなる抵抗運
動が予定されている。しかし、もともとこちらは数千人と規模が小さく、また国王の
地位については最初から問題になっていない。

11.00 GMT (続く)

事態はどんどん悪くなっている。

タフリール広場に入ろうとするムバラク支持派のデモを軍は最初は止めていたが、ど
こかの時点でGOになり、広場内に入るのを止めるどころか、むしろエンカレッジして
いる(BBC ジョン・シンプソン)という。そして、対決する反政府勢力とムバラク
持派のあいだで投石などが始まっている。

ムバラク支持派は明らかにジャーナリストを閉め出す意図を持っているとシンプソン
が言う。午前中は、ムバラク支持は外国人記者にあまりフレンドリーではないです、
などとレポートしていた記者も、いまでは意図的な排除が行われているとレポートし
ている。

ジョン・シンプソンは、ムバラク支持派の中に私服の警官が混じっているとレポート
する。平服を着た警官が丸腰の市民を傷めつけたり、それを撮影する外国人レポータ
ーに暴力をふるったりしている。そして、これは天安門のときと同じ戦術だ、と。

また、別のBBC記者(ジェレミー・ボーエンとジョン・レイン)は、ムバラク支持者の
中に金で雇われたごろつきがいるという証言を得たと言っている。

ケヴィン・コノリーもいま平服の警官が混じっているとレポートしている。ジェレミ
ーは、これは犯罪行為だと断言した。


(エジプトのみならず、イエメンやヨルダンの情報も入っているのですね。日本のメディアでは皆無に等しい・・・)




<第8信>
2011年02月03日 21.00 GMT (日本時間 04日 6:00)
革命なう@エジプト第10日


8.00 GMT


現地時間で朝10時。人々が続々とタフリール広場に向かっている。広場は夕べ、反ム
ラク側が死守したので、いまも広場をコントロールしているのはかれら反政府側だ。


昨日の午後から激化したバトルは夜を徹して続いた。800人以上が病院で手当を受け、
死者は5名(他にも4名、6名という説がある)。うち頭に銃弾を受けていた死者が4名。

タフリール広場の中で負傷した人たち全部は救急車で運び出しきれず(周りをムバラ
ク支持者が固めていた)、多くが広場や近くのモスクで仮の手当を受けただけなので、
実際の負傷者はもっと多いだろうとのこと。


(後述>頭を銃撃されて死亡した4名はおそらく全員プロテスター側で、夜のうちにス
ナイパーに狙い撃ちにされたのではないか。トルコ籍のガザ支援船がイスラエル海軍
に襲われたときの急襲部隊の手口を思い出させる。残りの1名は夕べ橋から落ちて死ん
ムバラク支持側だと思う)

攻防の最前線はタフリール広場の北側にある国立考古学博物館前の路上。そこからナ
イル川にかかる橋の上あたりまでにムバラク支持派が集まり、タフリール広場側にい
るプロテスターに向かって火炎瓶などを投げていた。いま現在、広場側には仮のバリ
ケードが築かれ、ムバラク支持側とのあいだには30〜50メートルぐらいの緩衝地帯、
そのあいだにムバラク側に顔を向ける形で銃を降ろした状態の兵士が立っている(よ
うに見える)。


エジプトの軍は(どこでもそうですが)国民を守る訓練をされているので、反政府側
ムバラク支持側もどちらも守るべき国民という立場を変えていない。しかし、朝の
兵士の配置やムバラク支持派へのボディチェックの様子など見ると、どちらが武器を
持っているかが明らかになったいま、自ずと守るべき方向が決まったように見える
(そうであって欲しいという願望ですが)。


(後述>この緩衝地帯は後にもう少し広げられ、中央に軍用車、兵士は両側にライン
を作り、人々の側に顔を向ける形で配置されている。また、博物館のキュレーターの
話として、博物館は何のダメージも受けていない、パーフェクトに守られているとの
こと)

ムバラク支持者側の抗議行動は非常によくオーガナイズされている。反政府側が手作
りのバナーを持ち寄って集まっているのに比べ、ムバラク支持側は印刷物のバナーを
用意してあった、と。また、トラックに乗り合わせて広場に乗り付けるなどしている。



BBC24では、タフリール広場にいる(いた?)エジプト系イギリス人俳優のハリド・ア
ブダッラーが電話でインタビューに答えている
前に(夜のうちに?)録音されたも
ののようだ。「銃撃の現場を見た。銃撃された人が救急車で運び出されるところを見
た。男性が頭に直接銃撃を受けるところも見た。非常に疲れている。友人はわたした
ちに食べ物を運んでくることさえできない」と。


ハリド・アブダッラーは若い舞台役者兼演出家で、『ユナイテッド93』でハリウッド
デビューし、『カイトランナー』で主演。近作の『グリーンゾーン』ではイラク人通
訳の訳でマット・デイモンと共演している(準主役)。頭の切れる非常にうまい役者
だが、マイノリティなので西欧の映画では役が限られるのが残念。息子の学校の卒業
生なので他人のような気がせず(笑)、そんな危ないところにいないで早く帰ってき
なさいと、ついお母さんの気持ち。



9.30 GMT

SKYニュース。タフリール広場、昨日の朝まではプロテストと言うよりもほとんどお祭
りのようだったのに、いまやここは戦場と言っていいと思いますとレポーター。

ロイターの記者の証言「ムバラク支持者はナイフや棒を持参している」。別の証言(だ
れだか忘れた)では、数百人の囚人がムバラク支持派に加わることと条件に解き放たれ
ており、また、私服警官も多数混じっているとのこと。これらのレポートをBBCもSKY
も放送している。

(略)

EUとエジプトの二重国籍者というツーリストのレポート。英語がうまいからたぶんイ
ギリス人だろう。昨日の昼を回ったころからムバラク支持派が広場近くに集まり始め
、午後2時ごろからクラッシュが勃発した。ムバラク支持者は近くのビルの(改装のた
めに建てられていた)金属製の足場を解体して武器にしていた(重くて長くてとがっ
ているので、これは非常に危ない)。

(略)

反政府側は武器を持ち込ませないことに関しては徹底していて、昨日までは広場に入
るために荷物検査やIDチェックを受けなければならず、プロテスターの扮装をした警
官その他が追い返されていた。今朝からはチェックはさらに厳しくなっており、武器
の持ち込みは厳格に禁じられている、とのこと。そのため、棍棒と鞭と銃で武装した
ムバラク支持側に対するプロテスター側の武器は、石と舗道の敷石。


(略)


UK、フランス、スペイン、ドイツ、イタリアが共同で声明を発表。この事態に対して
最大級の憂慮を表し、政権移行手続きをすぐに始めるように、またすぐにこの事態に
対処するようエジプト政府に要求する内容。特に外国人のジャーナリストがターゲッ
トになり、多数負傷していることを非難するもの。(外国人ジャーナリストをターゲ
ットにしているのはムバラク支持側。アレクサンドリアでもジャーナリストが組織的
に襲われ、負傷している)


10.40 GMT

ハリド・アブダッラーがBBCのインタビューに答えている。ハリドは広場に昨日もいた
し、いまもいる。そして、このプロテストが始まった最初からデモや集会に参加して
いたようだ。銃撃が始まったのは夜中に2時過ぎぐらいからで、心理的にも肉体的にも
非常に恐怖感を味わった。男が撃たれて死ぬのも見た。男の頭から脳みそがこぼれだした。


「わたしは慎重に言葉を選んで話しているが、こちら側が捕まえて軍に引き渡したム
ラク支持派は軍事警察のIDを持っていた。また、やくざのボスに行けと言われてきたと白状する者もいた」


「自分たちはここを動くつもりはない。暴力を開始したのはムバラク支持派であり、
こちら側はずっと平和的に1週間以上にわたって訴えてきただけだ」(非常に明晰で力
強いインタビューでした。あとで見つけたら持ってきます)

11.25 GMT

BBCのジェレミー・ボーマン「広場の中を歩いてみたが、包帯を巻いたりなど負傷して
いるものが非常に多い」


(略)


ニュースのたびにコンファームされた死者の数が増える。1時間前は8人、いまは10人
になったと言っている。昨日から今日の24時間、カイロだけで。

17.00 GMT

プロテストが始まって以来、教育のある若者たちがこの抵抗運動をリードしているの
だと聞いて知ってはいたものの、いまひとつ確信がなかったが、今日、ハリド・アブ
ダッラーがこのプロテストに最初からかかわっていたことを知って、それがほんとう
なんだと得心がいった。フェイスブックの4月6日ムーブメントには7万人が登録してい
ると言うが、ハリドのような海外で生まれ育った若者もきっと多いのだろう。ミドル
クラス出身でケンブリッジ卒の将来のあるプロの役者、かれはこの民主化運動が描く
若者像にぴったりじゃないか。


テレグラフが1月29日に報じた在カイロ米大使館公電の暴露(@ウィキリークス)は、
アメリカがこの運動のバックについているかもといった内容だった。アメリカがバッ
クアップする若者たちが反対勢力をまとめ、反対勢力どうしがイデオロギーを越え、
政府の圧政に反旗を翻すことで一致していると。そして、今年の大統領選前に体制を
変える計画だと。


しかし、その公電の執筆者である大使は、そのような運動が成功するとは信じがたい
と書き、それどころか、もしかするとそんな運動は存在しないかもしれないとさえ書
いている。若者たちを側面から支えることはしたかもしれないが、計画の実現の可能
性が低いと踏んでいた。つまり、アメリカはこの4月6日ムーブメントをつかみ損なっ
たってことだ。そんなわけで、この件をめぐるヒラリーとオバマの対応は常にちぐは
ぐであり、常に後手後手だった。



アサンジはこのグループを知っていたかもしれないね、とウィキリークスを取材して
いる友人に言ったら、きっと知ってたでしょう。かれはアフリカに長くいたからと回
答があった。



プロテスター側の青年の一人がさっき、インタビューに答えて、ムバラク後の展望に
ついて話していた。ムバラクが退陣してもいきなり反体制側がすべてを握るとは限ら
ず、ゆっくり歩むつもりだと。デモクラシーはそんなに簡単に身につくものではない
、だから自分たちはデモクラシーを少しずつ浸透させていくつもりだ。デモクラシー
はbit by bitだと。で、まず何をしますか、との問いに、まず教育、言論の自由を取
り戻したら、まず教育だと。

なんてすごいんだ、この子たち。もうだれも死なないように。


(この四月六日運動というのは初めて聞きます。やはり、チュニジアジャスミン
革命はきっかけにすぎなかった。その以前からの長い民主化運動があったのだとい
うことがわかります。アルジャジーラのインタビューを見ても、デモクラシーとい
う語が頻出する。「教育、言論の自由」・・・そう、今の日本にあるようでないも
の、それがコレです。)

アルジャジーラ・イングリッシュ。日が落ちた。銃撃音は日中から聞こえていたが暗
くなって一段と数が増えた。広場の中で負傷者の治療にあたる外科医からの情報とし
て、過去1時間のあいだに広場の中にいるプロテスターが3名銃撃され、うち2名が死亡
した。

カイロの北、ナイル沿いの町、マンスーラ MANSOURA でのデモの様子。17000名(ある
いは70000名。はっきり聞こえなかった)が参加してムバラクの退陣を要求。ムバラク
が9月の大統領選に出馬しないと宣言したが、大都市だけでなく地方都市でも民主化
持のデモがまだ続いている。

副大統領のスレイマンが今日、改めて反政府側(opposition)のすべてのグループに
対し、話し合いを呼びかけたが、ムスリム同胞団も、このプロテストを呼びかけた母
体と目される若者主体の4月6日ムーブメントも副大統領の協議を拒否している。

今日一日でエクソダス(エジプト脱出)の95便がカイロ空港から飛びたった。その中
イラクから避難してきた一家もいた。

プロテスター側は120名の警官と政府支持者を広場で拘束していると発表している。警
官はムバラク支持者として平服で送り込まれてきた者たちだろう。


エクセター大学のアシュラフ教授(イスラム学):最もありそうな展開として、ムバ
ラクは辞任するしかないだろう。武器を持たない平和的なプロテスターへの暴力を見
て、プロテスターへの共感はますます広がっている。アメリカの少なくとも10の都市
で反ムバラクデモがあり、ロンドンのエジプト大使館前では少なくとも3000名が声を
あげ、カナダ、フランス。ドイツ、世界のそこらじゅうでムバラク辞任を要求する人
が声をあげている。

フェイスブックで結びついたエジプト民主化運動(4月6日ムーブメント)には、非常
に高い教育を受けた者やミドルクラス、アッパーミドルクラスの者が多く含まれる。
医者、エンジニア、教育者その他が、もうムバラクの体制にうんざりだと集まってい
る。かれらの士気は高い。ムバラクが退陣するまでやめないだろう。

ムバラクにはアメリカかイギリスでの余生が保障されている。

ムバラクアメリカのABCのインタビューに答えて、「もう大統領職は十分だ。しかし、
自分がいま去ったらたいへんな混乱がおきるだろう」と。

明日の金曜日はモスクでの祈りのあとに大規模な抵抗運動が予定されている。4月6日
ムーブメントは明日を「出発の日」と名付けている。

いままでに13名が死亡、1200名以上が負傷。引き続き銃声が聞こえる。



<第9信>
2011年02月04日 10:45 (日本時間 19:45)
革命なう@エジプト 第11日


タフリール広場を埋め尽くす人、人、人。銃声と寒さと疲労に耐えて広場を死守した
若者たちは、この人の数にどんなに励まされていることだろう。

このプロテストが1月25日に始まって以来、使われてきたフェイスブックのページでは
、すべての国民にこの「出発の日」に参加するよう呼びかけがなされたそうだ。棺に
最後の釘を打ち込もうと。



国営テレビはこの日を「忠誠の日」と名付けた。

BBCの現地レポーター、ティム・ウィルコックスの報告によれば、昨夜は一昨夜と違っ
て、広場の中ではまったく何の暴力もなかったが、街路では外国メディアのジャーナ
リストが機材を奪われたり壊されたりなどひどい扱いを受けていた。西欧の人権活動
家のオフィスが襲われたりもした。



9.40 GMT

ウィルコックスがエジプト与党NDP議長のイブラヒム・カマルにインタビューするうち
に、ひどく黒いものが飛び出してきた。

ウィルコックスはまず、今日、大統領は辞任するかとストレートに切り出した。それ
に対し、カマル議長は可能性を否定。そして、大多数の国民はムバラク大統領に国を
出て欲しいとは思っていないと続けた。


それに続けてウィルコックスが、昨日、タフリール広場に秘密警察を送り込む命令を
出したか、8名を殺し、800名を負傷させる命令を出したかとストレートに尋ねたとこ
ろ、当然のことながら、それについては否定し、そのようなことをレポートする西欧
メディアを非難。


ウィルコックスがさらに、しかし、広場の中でプロテスターに捕まった男たちは秘密
警察のIDを持っていたがそれはどういうことか、と重ねて質問するうちにカマル議長
は次第に声を荒げ始め、それらはすべて西欧メディアのでっちあげだと言い出した。
ではそのIDは偽物だと言うのか、と重ねて聞くと、西欧メディアはいつもそのように
してわれわれを陥れると言い始め、西欧メディアはエジプトに対して組織的に醜いキ
ャンペーンを行っている。これは陰謀だと続けた。

ウィルコックスが「それは西欧に裏切られたということか」と尋ねると、カマル議長
は即座に「イエス」と。そして「西欧に裏切られたのは大統領だけではない、エジプ
トの国全体が裏切られた」と続けた。そして、タフリール広場にいるのはエジプト全
体のほんの一握りだ。エジプトの国民を代表していない。大多数の国民はこのような
ことを望んでいない、西欧メディアが陰謀を仕掛けていると強く主張。そして、いま
に百万の人々が街頭に出て、(西欧に対して)もう十分だと叫ぶだろう。ムバラク
統領は辞任しない、と言い続けた。

これより前に、スレイマン副大統領はABCの記者(名前失念、昨日、ムバラクにインタ
ビューした記者)が「プロテスターを広場から排除するために軍を使うのか」との質
問に対し、広場を去るようにお願いするが強制的に排除することはないと明言。ABCの
記者が重ねて、「絶対に?(Never?)」と聞くと「あり得ない(No way)」と回答。

広場での金曜の祈りが終わったようだ。

10.45 GMT (現地時間:12.45)




本速報は、TUPウェブサイト上の以下のURIに掲載されています。
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=911


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