追悼 石田比呂志
2011年2月24日午後0時10分、脳内出血にて永眠す。
石田比呂志の歌・・・・・・・・・・・歌集『滴滴』『九州の傘』より
第一歌集『無用の歌』や、『石田比呂志全歌集』におさめられている初期歌篇
もよいが、この二冊の歌集の時期がもっとも充実している。
流麗な調べのなかに一筋ながれる悲哀の声、それが石田比呂志の歌である。
おおここに風をふふみて丈低き阿蘇高はらの秋のりんどう
あらこれは楤の芽かしら天麩羅を箸にはさめば外(と)は雨の音
酒のみてひとりしがなく食うししゃも尻から食われて痛いかししゃも
昼寝より醒めしあわれは老眼のめがねが額の上にのりおり
春宵(しゅんしょう)の酒場にひとり酒啜る誰か来(こ)んかなあ誰(た)あれも来るな
今年またわが門前の若ざくらひらくがあわれ天つひかりに
崖(きりぎし)の窪みがなかのははこぐさ昼の曇りに色を湛えつ
丈いまだ低きがままに水仙の薫らむとせり雪の夕べを
紺ふかき茄子を塩もてしごくかな厨房の窓しばし余映す
自らの夢にあげたる声に醒め心(うら)さびしもよ目尻ぬぐうは
店頭の赤き林檎の頬をつと指につつきて幼子ゆけり